幕専開発の作業の流れなど

かんりです。後追いの後追いで恐縮至極です。

 今日は幕専の開発の現在の流れについてご紹介します。幕専の開発は、幕専開発計画が立案された当時は複数人での開発を前提に作業を分化していました。しかしながら、最近では実質的な開発主体がわたし一人になっていることから、大幅に作業手順を変えて開発しています。

 まず最初にしなければならないことは、データの企画立案です。幕専の立案初期に仕様そのものは確立されました。すなわち、「あ」から「ん」、「ア」~「ヴ」に駅名1つ1つのコマを作り、アルファベットと数字域に種別を配置するという基本仕様です。これによって1データあたり60程度の種別と、147の行き先が設定できるというものになりました。企画は、この限られた種別と行き先に実際にどういった内容を配置し、どういった趣向のデータにするのかということを決めていきます。

幕専コマ順案作成のエクセルテンプレート

幕専コマ順案作成のエクセルテンプレート

 たった一人では全国全駅をまとめ上げるのは恐らく不可能、ということで全国主要駅を地方地区単位で企画実装していくという方針にして、それぞれの地区で必要な駅名と種別を埋めていきます。実際に設定のあった行き先などはもちろん、JR化後にできた行き先であっても基本的には入れることでやっています。
 この作業を「幕専コマ順案作成」と呼んでいます。この作業はとにかくExcelのセルに駅名や種別を埋めてゆき、結論として先にもお話しした最大コマ数にきっちりとおさめることです。鉄道趣味の方、特に運用などを専門にされている方、鉄道史に造詣の深い方には何ということのない作業かもしれませんが、これらに疎いわたしにとっては非常に難しい作業です。
 まず最初に実在した方向幕のコマから駅名を一気に埋めていきます。そして次に、駅から時刻表などのウェブ系の時刻表データをもとに、現在の運用で存在する区間運用を調べて埋めていく、そして余ったコマにバリエーションや特殊な行き先などを埋めて、うまくコマ数を調整していきます。これできちんと全てのコマを埋めることが肝要で、これが出来ないと次の作業に進めません。

 次の作業は、「ガイド展開」という作業です。駅名とコマ位置が決まったことで、それぞれの領域に配置する駅名文字の漢字個数が決まりますね、例えば「名古屋」であれば3文字、「大阪」であれば2文字、これに対応した配置の位置きめフレーム、わたしはガイドと呼んでいますが、これを「あ」~「ヴ」の147の領域に手作業で埋めていきます。ガイドの種類は多種多様、種別のありなし、経由のありなしなどで全て異なってきますから、オートで埋めるマクロを書くことはやっていません。実際にはマクロをプログラミングしたほうがいいのでしょうが、それで確認作業をするくらいなら心を無にして、1つづつ配置したほうが早い、現実としてはこのような感じです。この作業、極めて苦しく、最後の確認作業では真っ白な画面に矩形が並んでいるだけのモニタをなるべく「まばたき」せず147コマ見送るということもあり、眉間にしわを寄せざるをえない作業です。

種別無しタイプの2文字駅ガイド

種別無しタイプの2文字駅ガイド

 

種別ありタイプの2文字駅ガイド

種別あしタイプの2文字駅ガイド

 「ガイド展開」が終わると、今度はアルファベット配置の外注です。先に「幕専コマ順案作成」で作ったエクセルファイルを発注仕様書として、それぞれにアルファベットの駅名を個別に配置する作業を、外部に発注します。これ、当然お金が必要です。わたしのお小遣いが投入されます。しかし時間はお金では買えないので、やむを得ません。仕様書がきちんとしたものでなければ困るので、ここで誤字脱字の確認などを行います。そして、エクセルファイルと「ガイド展開」でガイドを配置したTTFファイル(TrueTypeフォントファイルでアウトラインデータが入っている)と、標準アルファベットのTTFをセットにして、外部に発注します。工期は概算で1データが1週間~2週間です。

 発注していた作業が完了すると、TTFが「納品」されます。この納品物のチェックが必要です。しかしながら、チェックをしてNGだったところを修正させるとなると、手数が増えること、やりとりと時間が無駄になってしまうというジレンマがあります。同時に納期をスライドさせて別のデータをお願いしている場合もあり、ここで修正を割込させると次のデータの納期とクォリティに影響するかもしれません。そこで、ここでは上がってきたものは盲目的に「OK」と見なし、無条件で検収します。

 そして次の作業が幕専開発で最も重要な、「漢字」の作成です。先にもご紹介した「ガイド」の矩形のサイズによって、漢字のデザインを変えます。すなわち、ガイドの種類の数だけ漢字のデザインが存在します。「条」を例にとると、「四条畷」を作った時、同じ文字数の「西九条」、ガイドの矩形が同じ「西条」などは共通して利用できますが、「伊予西条」となると文字数が異なり、ガイドの矩形サイズが異なるため新しく作らなければなりません。これをコマ順案に書かれている駅名全てに対して実施していきます。作成した漢字のアウトラインは、「幕専漢字原本TT」というファイルに投入され、次回再利用となった場合はここからコピーしてガイドに貼り付けていくという作業を行います。ガイドに文字が埋まると、ガイドの矩形は削除していきます。またこのときにアルファベットの確認と微調整も行っていきます。問題があれば修正を行います。

ガイドにトレース目標を設置したところ

ガイドにトレース目標を設置したところ

 駅名が終わったら、今度は種別です。共通種別となるもの、例えば快速のロゴや、一文字種別(寝台特急の特急表記など)はコピーができます。愛称のひらがなも、ひらがな単位でセットを作っていますのでここからコピーできるものはコピーします。種別にも愛称物については一応「ガイド」があります。3~4文字までの文字サイズは縦長の標準ひらがなで同じなので、5文字以上の場合のみ調整、また2文字以下の場合も正体に調整します。

L愛称の2文字ガイド

L愛称の2文字ガイド

 さてアウトラインの全てが完成しました。ここで終わりかと思ったら、まだ作業があります。輪郭補正とニジミ処理、そしてOTF変換作業です。輪郭補正とは、部品単位で作られた漢字のアウトラインを合成する作業、ニジミ処理は合成してできた交点の直角位置に印刷のニジミを付与する作業、いずれも自動マクロで進めますが、個別の修正は全て手作業です。例えば「鳥」などの場合、部品の配置の都合上、不要な制御点が合成後も残ります。そのためこれらを削除する作業を行います。最初からニジミまで全部やっておいたものを配置すればよいという説もありますが、部品単位であれば直前の微修正、例えば「口」の字や「万」の字など天地幅が行き先漢字の組み合わせによって上下させた方が良いものを、その場で修正できるという利点があります。

輪郭結合前の「南」の部品群

輪郭結合前の「南」の部品群

輪郭結合とニジミ処理を終えた「南」

輪郭結合とニジミ処理を終えた「南」

 ここまで出来れば、ほぼ完成したも同然です。最後の作業として、OTFファイルへの移殖を行います。TTFからOTFへの全コピーが完了すると、幕専OTFファイルが完成します。なぜTTFで作ってOTFへコピーするのかという疑問が出ることかと思います。実際に作業していただいたら一番分かりやすいのですが、制御点の制御方式がTTFとOTFでは異なります。手作りでアウトラインを処理する時、TTFのほうが圧倒的に作業が楽、かつスピーディなのです。時間は一番大切、ということでTTFベースで作業します。

 こうして全ての作業が完了しましたが、印字見本PDFを作らなければいけません。またExcel作業です。これをPDF出力し、1コマづつ目視確認をしていきます。アウトラインが潰れていないか、アルファベットが正しいか。しかしながらこの辺りで既に気力も集中力も限界に近いので、少なからず漏れが生じてしまいます。そして見本PDFを公開し、ユーザの皆さんからご指摘を受けて修正するというという、最後の最後のブラッシュアップを実施して幕専の1データが完成します。

エクセルでコマ一覧表を作成している様子

エクセルでコマ一覧表を作成している様子

コマ一覧表をPDFに出力した様子

コマ一覧表をPDFに出力した様子

PDFにしたコマ順一覧を拡大して細部を確認

PDFにしたコマ順一覧を拡大して細部を確認

 特にどうでもいい話を長文で申し訳ないです。幕専は今までも、そしてこれからも無償を目指していきますが、その根底にあるのはアナログデザインの保存、文化への貢献(著作権法の真髄である)という大儀があるからこそやっている作業です。タダほど高いものは無い、そういう類のものだと思います。今まで公開していた「国鉄方向幕ロゴ」が公開停止になったのも、そのクォリティの低さゆえ幕専に統合させたからですが、そういった成果物へのクォリティは「顧客意識」につながるものとして重要視しています。完成度の低いものをユーザ各位が使い、それで満足されるということがベンダーとしてのわたしからすれば申し訳ないし、歯がゆい。内外ともに「Excellent」と評価されるものを作りたいと思っています。

 <現在の作業予定について>

 現在の幕専作業は、年内リリース予定品の漢字作成作業です。新幹線→北陸→中電東→東海→東北→北海道、この順で予定しています。とりあえず当面は地味な漢字作成作業が続きます。
 また、あわせて年内にやってしまいたい「客車テールマーク」についても並行になんとか作業を組み込もうとしているところです。大変ありがたいことに、客車テールマークについてはかなりの資料をご提供いただきました!!!ご提供くださった各位に心から御礼申し上げます。
 「さくら」「あさかぜ」この辺りの「当たり前」の部分はわたしが購入したもので事足りましたが、「銀河」や「なは」「かいもん」「日南」そしてなんと「ちくま」「だいせん」の絵幕までご提供いただいて揃いました。「まりも」「天北」などの北海道系も完璧です。早く仕掛かりたいという気持ちも強いのですが、側面完遂という大儀もまたあります。作業スケジュールが決まり次第、随時お知らせしていきたいと思います。

 テールマーク幕専が完成すれば、愛称板幕専(号車札含む)をあわせ、模型用デカールの大部分を幕専で代用できるようになり、鉄道模型界への大きな革新が起きることは間違いないでしょう。市販シールではどうしても表現できなかった世界を大幅に超える表現が可能になるだろうと思っています。幕専はNゲージとHOゲージというサイズの規格に縛られませんから、どちらも作り手使い手の意のままに扱えます。極端な例を取るとプラレール(登録商標です)も対応可能でしょう。特殊な媒体を使えば、タオルなどの繊維媒体にアイロンで印字するデカールも作れますし、車体に貼るカッティングシートも作れるでしょう。この機動力でもって、テールマーク、ヘッドマーク類が完成すれば、鉄道模型界のデファクトスタンダードは目前だと確信しています(特にこれが目的な訳ではないですが、副産物的な利点としては大きいと思います)。
 また、ロールズ公認のサードパーティ製の方向幕シールの販売も行われるようです(ロールズとしては商品化許諾のみ行います、すでに許諾済メーカーさんも登場しています)。今後の新しくリリースされる幕専と連動して、新商品もでてくることになるかもしれませんね。アウトラインフォントを使った、より精度の高いものが市場競争に参加していくことは、業界全体での関連商品のクォリティアップにも寄与するものと思います。当然、個人の方でもご自身で作成される場合のツールめいたもの、補助的なものも用意していきたいと思っています。

 大幅な遅れがあったとはいえ、これまでも各種幕専や国鉄方向幕書体について、ユーザ各位に約束したものをしっかりリリースしてきました。できるかぎり有言実行していく、世の中の役に立つものをリリースしていく、日本の文化に貢献する、この心でやっていきます。

 ひとりでできる作業には限りがあります。みなさんも大変お忙しいでしょうが、もしちょっとした暇ができるようでしたら、確認作業だけでもご協力いただければ幸いです。また、資料幕のご提供などで協力を頂いている方々もいらっしゃいます。今より少しでも良いものを、完成度をめざしてがんばりたいと思いますので、今後ともご協力方宜しくお願いいたします。